2017年8月6日日曜日

名前のはたらき


遊郭「吉原」は葦(あし)が生えた原っぱだった。
「葦=あし=悪し」
葦原(あしはら)ではあまりに縁起が悪い。
縁起を担ぎ、「悪し」ではなく「よし」にしよう
そうして「吉(よし)原」と呼ばれるようになった。





名前には色々と意味がある。
親の理想であったり、昔の地形だったり、
もうなんでそう呼ばれているのかわからなくなってしまもの、
そうならないために、忘れられないように名前がつけられる。





僕たちは見た目が同じでも、それぞれ違う名前がつけられている。
現地の言葉で「湿地とその草原」と呼ばれたり、
1番いいのに「No.2」と名付けられたり色々だ。

「モカ」っていうのは港の名前。
モカ港から出荷されるコーヒーだから、モカコーヒーと呼ばれている。
下関でとれるから“関”サバと呼ばれるように、モカコーヒーも関サバみたいなもの。
もし僕らが月の裏から出荷されたら
「ムーンバックサイド」と名前をつけられていたかもしれない。

自分の意思とは関係のない所で名前を付加され、
自分達の意思とは別の、相手が納得する名前で呼ばれている。






僕たちもサバのように群で(袋に詰められてはいるけど)海を渡ってくる。
薄暗い麻の袋の中で船に打ち付ける波の音だけを聞き、
いやというほど浴びた太陽の光が恋しくなる。



海をまたいできた場所で、まだ僕たちは同じ名前で呼ばれている。
ここが僕らの終着地。



久しぶりに浴びる太陽の光の元で、良いのと良くないのに選ばれる。
まじまじと見られている間、僕は特に緊張するでもなく、
ただただじっとそのときを待つばかり。
その人が何を想像しているかはわからないけど、
何かを想像しているという事だけは感じている。






仲間たちと火にかけられて、
違う港から海を渡ってやってきた同志達と混ざり合い、
一つになり、新しい命を吹き込まれる。
そしてまた新しい名前を与えられる。
新しい場所の名前だ。
今までつけれていた名前とはまた違う意味をもつ名前。
今までは表か裏かわからないシールで貼られたような名前だったけど
今度の名前は駅伝の走者がかけるたすきのような感じ





そこで自分の役割が
誰もが欲するわけではないけれど、ある特定の人には必要な存在だったこと。
ここだけにしかない、自分につけられた名前の意味を背負うこと。
という事に知らされる。






僕らは毎日身を粉にして働いているんだ。
それが僕らの役割なんだ。









2017年5月11日木曜日

珈琲屋のマスターの契約

珈琲屋のマスターはお客と話してはいけない。
口を閉ざす事で上等な珈琲を淹れる事ができる。

と彼は信じている。





彼は悪魔と契約して上等な珈琲を淹れられるようになった。
契約の内容は

“お客と話をしないこと”

彼は自宅を改装して上等な珈琲を出す喫茶店を開いた。
腕のいいマスターとして珈琲屋を営んでいるが、
悪魔との契約があるためお客とは話す事ができない。





しかし、悪魔との契約内容を知らないお客は容赦なく話しかけてくる。
しかたなく和かに振る舞うしかない。
時々出る声も風船が擦れたような声しか出ないが、
それでもお客は満足して帰っていく。
そして何人か、また来ては話しかけてくる。





はたして、自分の言葉がお客にどのように聞こえているのだろうか?
声を出せてないはずなのに、
なぜ伝わっているのだろう?
自分では出せてないと思っている声は、
何と伝わっているのだろう?
その話した内容はマスターにはわからないが、
お客には何かが伝わっているようだ。





閉店後、真っ暗になった店のカウンターに座り、
ビールを飲みながらマスターは独り言を呟く。
しかし、その声を聴くことができる人はいない。
隙間ができた床の下にある埃と共に、
誰に見られる事なく徐々に積もっていく。
少し酔いながら久しぶりに自分のために珈琲を淹れて飲む。
美味い。
それに安心して、また一口すする。


マスターは悪魔と契約を交わした内容に後悔はしていない。






2017年2月24日金曜日

僕の好きな大阪

僕はもうすぐ大阪から東京へ移り住みます
8年間暮らした大阪には好きな場所や店がいくつもあります
中にはもうなくなってしまった場所もあります
最近では飲み屋さんの方が多いけど
昔は女子力が高かったからカフェも好きでした







心斎橋と難波の間にある本屋「STANDARD BOOKSTORE




今でこそカフェが併設されてる本屋は多いけど、8年前にはココくらいしかなかった
近くにカフェがないか調べてたときに見つけて
初めは「???何ココ???」と思った
ココのイベントではいろんな人の話を聞けた
谷川俊太郎、会田誠、柴田元幸、幅允孝、尾原史和、服部滋樹、山崎亮
「カルチャー」という言葉でひとくくりにするには狭すぎる
多くを学ぶ場所として、刺激を求めて通っていました







中之島のしっぽの先、阿波座のマンションの一階にあるカフェ「martha




トイレには奈良美智が描いた落書きがある
この店は場所的に近所の人が来るか、わざわざ来るかしかない
カフェ好きな若者もいれば、営業周りで休憩がてらコーヒーを飲むサラリーマンおっちゃん・おばちゃん、色んなお客さんがいる
夜は美味しいご飯とお酒が飲める
白髪ねぎがたっぷり乗ったシンプルな味のネギピザ
唐揚げも忘れずに食べたいし、パスタやグリーンカレーも美味しい
夜はライブをやる事もあり、三者面談並みの距離でおおはた雄一さんのギターを聴いた
また晴れた休日の朝に自転車をこいでモーニングを食べにいきたい







四ッ橋からなにわ筋をまたいであみだ池筋まで横に長く伸びたうつぼ公園






ココでは何度もコーヒーを淹れたし、その常連のハトやスズメがいっぱいいる
テニスコート側に交番があるのでいつもビクビクしながら
なるべくそっちに近づかないようにコーヒーを淹れていた
数年前に移転してしまったけど、タケウチという美味しいパン屋さんが目の前にあり
公園のベンチで食べる贅沢を何度も味わった
春は桜が綺麗だけれど、僕は秋から冬にかけての公園が好きだった







きっかけは陶芸ギャラリーのお姉さんが履いてたスニーカーがカッコよかったから教えてもらった店「struct





最近、同じのを持ってる人を良くみるようになった鞄「WONDER BAGGAGE」や
カッコよくてフィット感が最高のスニーカー「BLUE OVER」を取扱い
作り手が見える、メイドインローカルを感じさせるものを扱うお店
最近は服だけじゃなくものも扱っていて、どれもこれも魅力的
店の中で一番魅力があるのは店長の原田さん
初めは話しかけることもできなかったけど、近頃は買い物の時間より話してる時間の方が長いし楽しい
とても信頼できるカッコいいお店







天神橋筋六丁目から目をつむってでも行ける「自家焙煎珈琲 喫茶 路地






近くの立飲み屋には何度も行ったし
コーヒー以外の思い出の方が多いかもしれない
僕がココへ来る理由は「美味しいコーヒーを飲むため」ではなくなっている気がする
友人に会いに来る事と、この店を味わいに来ている
他の常連さんも同じなんだと思う
コーヒーはあくまでオマケ、マーキングのようなもの
外に出すマーキングではなくて、自分の中に残すためのマーキング




どの店、どの場所にでも言える事かもしれない
そこに座る事で、そこのモノを買う事で、口にする事で、その人と話す事で
自分の中にマーキングをしているんだろう
よく「大阪を捨てて」「地元を捨てて」と言うけど、違った
むしろ全部持って行ってる
ただ、全ての場所の事を全部持っていこうとしても
多すぎて抱えきれないから全部を少しずつ




僕はもうすぐ大阪を出て東京へ行きます
時々、大阪へ来てはマーキングしに来ます

2017年2月5日日曜日

JCF〜さよなら右腕〜

うっかりしてましたが。
先日、私、下鴨神社でコーヒーを淹れておりました。
鴨川の河川敷では何度か淹れた事がありましたが。
神社の中では初めてです。




と、いうのも毎度お馴染み自家焙煎珈琲 喫茶 路地のお手伝いをしておりました。
Japan Coffee Festival in SHIMOGAMO(JCF)」というイベントに
喫茶路地が出店することになり
私に白羽の矢が立った(むしろ、突き刺さった)のです。
以前に何度か喫茶路地の店長代理としてイベントに出店した事はあったのですが。
今回は喫茶路地の店長もイベントに参加するので
ドリップマシーンとしてお手伝うことになりました。




私が一番気をつけたことは
「同じ味を出すこと」
二人でドリップするため、味を揃えないとなりません
同じ豆、同じ分量、同じ環境でドリップしても
入れる人によって味が全然違います
そもそもドリップのに必要な材料が豆とお湯だけなので
ドリップの仕方以外、味の調整ができないのです
何度か喫茶路地の店長にドリップのレッスンを受けたことがあるのですが
改めて、イチから教わる事にしました
(ドリップの方法は企業秘密かもしれないので
 その方法を書くのは控えさせていただきます)




一番最初に教わった淹れ方とまた変わっていたので
再び教わってからの2週間は毎日、3杯分の量をドリップしました
普段1杯分しか淹れないのでポットのお湯の量が全然違います
重い
イベント当日はこれを1日中続けないといけないので右腕の筋トレも始めました
筋トレの甲斐もあってか、店長から味の合格をもらい本番を迎えました




朝一の京阪電車に乗って下鴨神社 糺ノ森へ向かいます
ここは毎年夏に納涼古本市がひらかれ人が賑わう場所です
ただ、それはあくまで夏の話
このくっそ寒い冬の日にコーヒーだけを飲みに来る人なんて、、、
と思っていたら










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人だらけ
開場の頃には後ろが見えないくらいの行列ができてました




ただ、やっぱり二人で入れるのは心強い
心にゆとりをもてるペースで淹れられました
バタバタ忙しくて他の店を覗きに行く余裕はありませんでしたが
大勢のお客さんに美味しいコーヒーを提供できたと思います


















そして、翌日は右手でケータイを触るのも嫌になるくらい筋肉痛になりました



2016年12月27日火曜日

2016年に読んだ本

2016年もあとわずか

去年あたりから本を読む姿勢を変えたので
今年は数年前よりも読んだ本の数が少ないです
今年読んだ本は47冊



『面白い本をたくさん読みたい』から
『読書数を伸ばすために読む』に変わってしまい
『面白そうだけど分厚い本』は避けて
『興味ないけどすぐ読めそうな本』を読むようになってしまっていました
それはよろしくないと思い、読みたい本を読むことにしました



ただ問題があります
たしかにピュアな読書としては機能してるんですが
読むのに時間がかかりすぎるのです



分厚い本、上・下に分かれている本を読もうとすると
1ヵ月で2冊も読めない
今読んでいる「魔の山」は並行読みしているせいもあるのですが
2ヵ月以上かかってもまだ上巻の2/3ほどしか読めてません
このあと下巻(800P、なぜか上巻より200Pくらい長い!)が待っていると思うと
魔の山を登り切るのは果てしないと感じます



ビジネス書や最近のベストセラー本は2日もあれば読めるのですが
名作とよばれるものは時間がないと読めません
「戦争と平和」を読んでみたいな~と思っていても
5巻も6巻もある(おそらく)ネチネチした長文を
黙々と読む時間が社会人になると時間がありません
ああいう本は一気に読まないとその中に入っていけなくなります



だからやっぱり学生のうちに読書しないといけないというのは本当だと思います






あまり多く読んでませんが
今年読んだ本の中から特に良かった本をピックアップします





数学する身体」 著:森田真正

「1+1=2」という事を教えるのは学校の「数学」
この中で言われている『数学』とはもっと広く大きい
数学を数字や数式で語るのではなく、人と心で語られた
数学エッセイのような本





方丈記」 著:鴨長明

国語の教科書に出てくるので、題名だけは誰もが知っているはず
サクッと内容をまとめると
「自分仕様の狭い家に住んでる変なおじさんが
 鎌倉時代の京都で起こった出来事を書いた日記」
谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」に通ずる『日本建築の良さ』がわかる





熊撃ち」 著:吉村昭

実際に北海道で起こった熊にまつわる事件をもとに
その事件の種になった熊を猟師が撃ちに行く話
ストーリー性をもたせて書かれているとはいえ
山村に住む人々や猟師の心情を思わずにはいられない





ガケ書房の頃」 著:山下賢二

学生の頃、何度か足を運んだ不思議な本屋
白川通りのとある角にある車が突っ込んでいる店「ガケ書房」
その店長だった山下さんがガケ書房を始める前から辞めるに至った経緯
店同様、山下さんも変わった人だった
悪戦苦闘していた日々が綴られている
何かを作ろうともがいている人なら共感できる所が多いはず






「じゃあ、イスラム教って何?」と聞かれて答えられる人は何人いるだろう
「イスラム教の人はテロとか起こして、野蛮で凶悪」と悪いようにしか伝えられない
アメリカ人が凶悪な事件を起こしても「キリスト教徒は野蛮」とは報じられない
何も知らずに語ることの無力さ、無意味さ
とても理解しやすく飲み込みやすい
ただ、映画「最強のふたり」をイスラム教とからめるのは強引だと思った





おろしや国酔夢譚」 著:井上靖

江戸時代、伊勢から江戸へ船で荷物を運ぶ最中に遭難し
8ヵ月後にたどり着いたのはロシアの東の端
そこから1万km以上ある道を行き
日本へ帰してもらうために女帝エカテリーナに交渉しに行く,,,
本当にあった事とは思えない実話
生きて日本に帰るため、グーグルマップもアイフォンもなしで
現地の人の言葉を学び、仲間を失いつつ極寒のロシアを13年も過ごした人の話
壮大すぎて何がなんだか、、、



以上です

2016年12月22日木曜日

2016年のカレンダー

去年に引き続き
今年もカレンダーをかきました



セブンイレブンのネットプリントはまぁなかなか便利なもので
書類や写真などの画像をネットで投稿し
それをダウンロードするためのパスワードさえ知っていれば
全国どこの店舗でもプリントアウトできるのです



ただ、これはあくまでビジネス目的で作られたわけではないので
これを配布した本人にはびた一文入ってきません
なのでただの自慰行為にすぎません



今年は「それぞれの月の数字から始まるお話」をテーマにかいたのですが









地獄







2015年の年末にこの案を思いついて
7か月分くらいはあらかじめ作成できたので、それ以外は

「まぁまだ時間があるから大丈夫だろう」

と気軽に考えていたのですが








地獄







まぁ、それはそれはめんどくさい

誰に頼まれたわけでもないしやめてもいいけど、、、
7月でやめるっていうのも中途半端やし、、、
自分でやりだしたことだから、、、



10月以降は締め切りに追われ
自分で自分の首を絞めることになりました






と、まぁいろいろ大変だったので
このまま2017年をむかえるのもなんなので
12月分をまとめました






1月



1番が大好きな王様は城中の誰よりも1番早く起きて
1番大きな声で1番最初に「おはよう」と叫びます
城の者たちはその声におどろいて飛び起きるのです

1番が大好きな王様は城の中だけでは飽き足らず、
街の誰よりも1番早く起きて1番大きな声で
1番最初に「おはよう」と叫びます
新聞配達人はその声におどろいてすっ転んでしまいます

しかし、そんな王様よりも早起きなやつがいたのです
毎朝、東の山から顔を出す太陽です

あるとき王様は太陽より早く起きて「おはよう」と叫ぼうとしたのですが
空に太陽がのぼっていない朝なんてありません
しかたがないので、王様はまだ薄暗いうちから
太陽が顔を出すのを待っていました。
しばらくして太陽が山から顔を出して
王様よりも早く「おはよう」と言いました

王様はそれよりも大きな声で「おはよう」と2番目に叫びました。





2月




2人はいつもいっしょにいてどこへ行くのもいっしょです
でも彼はいつも遅刻してしまうので、彼女はいつも待ちぼうけ。

そんな時、彼はいつもいろんないいわけを言ってやってきます。

「アリが僕の家を角砂糖と間違えて、巣にもっていっちゃっててさ」とか
「シャツの首の穴がどっかにいっちゃっててさ」とか
「ミミズに靴の履き方を教えてたからさ」とか

それを聞いて彼女はやれやれ、と思いながら
「それは大変だったのね」と言います。

彼はいつもいいわけを言った後、花を彼女に差し出します。
彼女はその花を受け取り、2人でお出かけに行くのです。

2人はいつもいっしょにいて、何をするのもいっしょです。
1つのチョコレートを2人で半分こにして食べます。
彼はいつも大きい方を彼女にあげます。
彼女はいつも最後のひとくちを彼に食べさせてあげるのです。





3月




3つ山にはそれぞれ別の木が植えてあります

1つ目の山には梅の木が植えてありました
まだ冬の寒さが残るころに、ポチポチと赤い花を咲かせて
大勢の人は寒さが和らいでほしいなと思いながら赤い花を眺めます

2つ目の山には桃の木が植えてあります
冬の厳しい寒さが和らいだころに
空気に穴をあけたようにふわふわとした花を咲かせて
大勢の人に冬の終わりを感じさせてくれます

桃の花が咲くと1番目の山から人が去っていきます
1つ目の山は「また来年」とつぶやきます

3つ目の山には桜の木が植えてあります
春のおとずれを知らせるように薄いピンク色の花が咲きます
大勢の人は厚手のコートを脱ぎ明るい色の服に身を包み
お弁当やおかしをもってお花見にでかけます

桜の花が咲くと2つ目の山から人が去っていきます

2つめの山は「また来年」とつぶやきます





4月




四角い窓からやさしい風にのっていろんなものが飛んできます
何かの匂いがふわりと入ってきました

どこかで嗅いだことのある匂いだなぁ。
花のにおいかな?
そういえばあの人はシロツメクサが好きだったなぁ。。。
おっと違う、匂いのはなし。

これはおひさまの匂いかな?
去年の今頃も天気が良くて
みんなでピクニックにでかけたなぁ。。。
おっとっと違う違う、匂いのはなし。

これはちょうちょが飛ぶにおいかな?
暖かい空気につつまれてヒラヒラ舞うちょうちょ。。。
そうそうこんな感じ。
思い出してきたぞ。

すると風に乗り、鳥の鳴き声が聞こえてきました。
その鳥の声のせいで、何の匂いかわからなくなってしまいました。
せっかく思い出せそうだったのに。。。
また風が吹き、ヒラヒラと1枚の花びら舞っていきました。





5月




5羽のツバメが
温かい島の入口までやってきました
3羽はオスで2羽はメスのツバメです

3羽のオスは2羽のメスに惚れられるために
互いに自分のジマンを言い合いました

「ぼくは誰よりも早く虫を捕まえることができるんだ!
 ぼくと結婚すればエサに困ることがないよ!」

「僕は誰よりも巣を作るのが上手なんだ!
 ぼくと結婚すれば立派な巣に住めるよ!」

「ボクは誰よりもキレイなつばさを持っているんだ!
 僕と結婚すればボクそっくりなかわいいかわいいヒナが育つよ!」

あーでもないこーでもないとやかましく言い争いながら飛んでいると
気付いたときには島の反対側まで飛んで来ていました
振り返ると2羽のメスの姿が見当たりません

2羽のメスは島の入口でぺちゃくちゃと楽しくおしゃべりをしていました

「この島にはおいしい虫が多い場所があるのよ!今度行きましょう!」
「いいわね!行きましょ行きましょ」





6月




六畳一間のせまい部屋
外は雨がざーざー降っている

洗濯をしないといけないけど
めんどくさいし
これも全部雨のせい

部屋の片付けをしないといけないけど
腕がだるいし
これも全部雨のせい

どこか遠くへ出かけたいんだけどなぁ
おしゃれをしても濡れちゃうし
これも全部雨のせい

友達から手紙がきてて返事を書かないといけないけど
ハガキをきらしちゃってる
これも全部雨のせい

こうやってせまい部屋で何もしないで
小さな窓から聞こえてくる
車がざーざー水しぶきをあげて走る音を
ただぼーっと聞いたり

窓にしたたる水滴が何かの模様に見えたり
はじめは小さくゆっくり流れていくけど徐々に集まって
大きく早く流れていくのをたどったり

ちょっと外に出ないといけないときカサをさして歩くと
カサの中だけがまるで自分だけの場所になるような感じだとか
少し特別な日にしてくれる
これは全部雨のおかげさ





7月




7つの海を渡るため 船は取りかじズンズン進む
海は凪いでて 波もおだやか
頭の上には渡り鳥 向こうの島をめざし飛ぶ

最初の海であらわれた 山より大きなおばけ蛸
長い手足を振り回し マストをビリリと破り裂いた
スイカみたいな吸盤で 窓をすっぽり抜いてしまう

強い船長 腕を振り上げ
岩より固い 拳で一撃
おばけ蛸を退治した

さすが船長オニより強い
強い船長 料理も得意
おばけ蛸のステーキできた

おなかいっぱいたらふく食べた
おひさまサンサン ウトウト昼寝
船長寝ながらこう思う
次の海では何食べよう





8月







8年間土の中で眠っていたセミが
朝が始まる少し前に土の中から顔を出した

セミは枝につかまりまだふやふやの羽をひろげ
乳白色の体でサンサンと降り注ぐ太陽の光を浴びて
「この世の中はなんて素敵な所なんだろう」
と喜んでミンミンミンミン鳴きました

空を飛び回り頭上に浮かぶ大きな入道雲と
追いかけっこを楽しんでジージージージー鳴きました

でも陽が沈み真っ赤な夕焼けを見ていると
セミはわびしい気持ちになりカナカナカナと鳴きました

陽が落ちてしまうと辺りは真っ暗
お昼の陽気な気持ちも一緒に沈んでしまったかのようです
セミはあまりに哀しいので死んでしまいました

哀しみに暮れながら重い気持ちを引きずってあの世へ行く途中
東の空を眺めるとだんだん明るくなり真っ赤な太陽が顔を出しました

セミは「なんだよ!また出てくるなら早く言ってよ!」と怒りました
また新しい1日が始まります
今日もどこかで元気に鳴くセミの声が聞こえてきます





9月




9つのお団子を作んのにかかる時間は15分
月の上のお団子工場ではあっちゃこっちゃで
コロコロ団子をこねる音がひびいてる

餅つきができるんは全部が一番うまいな2人だけ、俗に言う花形や
相棒が変わったんは3回あった
あるやつは女の尻を追っかけてどっか消えてしもた

今夜は15番目の月が顔を出す日やから月の上はてんやわんやや
ぺったんぱったんモチをついていたら
すぽーん!と杵が手から抜けてどっかに飛んでってしもた
「やってもた!取りに行かな!」
相棒が「おい!早よ帰ってこいよ!夜がくんぞ!」と叫ぶのと同時に
ぴょーん!と地球に飛び降りて杵を探しに行った

道を歩く2人をみつけ、杵の行方を聞いたら
「僕はこっちの谷から飛んできたのを見たよ」
「私はあっちの山へ飛んでいくのを見たわ」
お礼を言ってあっちの山へひょいひょい登っていったら
けったいな形のカシの木があるだけで、杵はどこにも見当たらへん

カシの木をよく見てみたら自分の名前が書いてあった
杵から芽が生えてカシの木になってしもたらしい
いつの間にかとっぷり暗くなってしもて
カシの木のてっぺんからまんまるのお月さんが顔を出してた





10月




10匹のミノムシはみんな性格が違います

水色のマフラーを巻いているミノムシは寒がり
もっと寒がりなミノムシは黄緑色のセーターを着てポカポカ

早く成虫になりたいミノムシもいれば
ずーっとこうやってぶら下がっていたいミノムシいます

キレイ好きなミノムシはキレイな枝を探しては定期的に交換しています
1番早く起きたミノムシは日が暮れるとすぐ寝てしまいます
1番遅くまで起きているミノムシは陽が昇ってもまだぐうぐう寝ています

夜になくフクロウの声を聞くのが好きなミノムシは本を読むのも好き
話を聞くのが好きなミノムシは渡り鳥に遠くの国の話を聞きます
おしゃべりが好きなミノムシは木に集まる他の虫たちとペラペラ冗談ばかり話しています

10匹のミノムシはみんな同じ木にぶらさがっています
みんな同じどんぐりのぼうしをかぶっています





11月




11人乗りのバスで遠くの町まででかけます
11人のうち1人は運転手
のこりの10人は楽しくおしゃべり

バスは3つの山を越えてズンズン進みます
バスは力強くどんな坂道もグングン登って行きます。

山を越えるとそこには知らない町の知らない家やお店が建ち並びます
知らない駅からたくさの知らない人があふれてきて
みんな自分の家に帰るのか、それとも誰かに会いにいくのかもしれません

それを見ながら10人はあれやこれ話します
「あの人の晩ご飯はカレーだろうね。」
「あそこのパン屋の名物はクリームパンかな。」
「あそこの学校には何人くらい生徒がいるのかな?」
「あの子がはいてるクツ、私もはいているわ。」

10人が知らない町は運転手が住む町です。
もうしばらくすると運転手の家が見えてきます
運転手は自分の家を通る時
10人に気づかれないくらいの大きさでクラクションを「プ」と鳴らしました。





12月




12時の鐘の音がなると「おやすみ」の声がやみ
今日1日の出来事や 久しく会っていない友達の事を考えながら
みんな布団に入り 眠りの世界へ溶けていきます

夢の管理人はみんなが寝静まってから仕事が始まります
夢の管理人の仕事はみんなの夢を回収することです
使い古したハサミで夢をちょん切って袋に詰めていきます

夢をほおっておくと世界中が夢だらけになってしまい
みんながぼんやりしてしまうので
みんなが朝目覚めるまでに素早く回収しなければなりません

ただ、ハサミの切れ味がよくないので
夢のしっぽまでちゃんと切れてない事が多々あります

そして管理人は仕事が遅いので
町内を一周し終えるころには朝がやってきます
何人かの人は夢のしっぽがついたまま
モニャモニャと朝を迎えるのです

もうすぐあちこちで「おはよう」の声が聞こえてきます
まもなく朝です



2016年12月12日月曜日

いしいしんじさんと私

僕は本を読むけど、小説はあんまり読みません
存命する好きな作家は村上春樹といしいしんじ
新刊がでれば意識して買って読みます



“いしいしんじ”との出会いは7年前のことでした
初めて入った小さなバー
店員さん一人、カウンターだけの店
店員さんがスタンダードブックストアで働いていたというので
何か面白い作家はいないかと聞くと
「村上春樹が好きなら“いしいしんじ”は面白いかも」
と勧められ翌日さっそくスタンダードブックストアで「ぶらんこ乗り」と「うなぎのダンス」を買いました

「ぶらんこ乗り」は童話のような、現実と空想が混ざりあう話でスルスル読めて
「うなぎのダンス」はいしいしんじという人のブクブクはじける頭の中を覗いたようなエッセイで
両極端な2冊でいしいしんじにどっぷりハマり、他の著書もむさぼるように読みました

ただ、教えてくれた店員さんに「とても面白かったです!」
と感想を伝えようと、2週間後に再び店に行くと
店は閉店して教えてくれた店員さんとは会えなくなってしまいました





その後、「いしいしんじのごはん日記」という
いしいさんの毎日の生活を読めるHPで色んなイベントの事を知り
四条烏丸のcocon烏丸にあったShin-biギャラリーで行われた
「The Beatlsの音楽の作法」
というイベントへ、ただサインをもらいたいがために本を片手に行きました
ビートルズのレコードをいしいしんじと湯浅学さんが
プレスされた国ごとに違う音色や、音の振り方を解説し
それを僕らは5時間くらい聴き続けるという貴重で奇妙なイベント
そこで語るいしいさんの言葉は音を形容して見せてくれる
まるで4人がそこで演奏しているかのように聴こえてくる
いしいさんの文書だけでは見えないところが見えてきて
ますます、いしいさんのトリコになっていきました



その後もいしいさんが出るイベントに何度も足を運び
不思議なお話を聞いたり
そのたびに本にサインをもらったり
家にあるいしいさんの本の半分くらいはサイン入りになってます





ある時、本が好きな上司が

「すみかわ君、いしいしんじさんって知ってる?」

と聞いてきたので
知ってるどころか、サイン本をもってるしよければ貸しますよ?
と偉そうに返事をすると
その上司は面白い話をしてくれました





  この前の休みに奥さんと近くのスーパーへ車で買い物にでかけたんや
  駐車場に車を停めたら3~4才の子供が

  『つーしーぶいや~!』

  って叫びながら近寄ってきたんや
  (上司は2CVというシトロエンの50年くらい前のクラシックカーに乗っています)

  『よう知ってるな~、買い物終わった後で乗せたろか』

  って約束して買い物終わってから乗せてあげたら
  クラッチ踏んでギアかえたり、よう知ってるんや
  その後にその子の親御さんが

  「ありがとうございます。実は今度こういうイベントがあるので
  ご都合がよろしければお越しください。」

  ってメールもらってんけど
  そのメールくれた人がいしいしんじさんやってん











絶句



いしいさんの住んでる場所はなんとなく知っていたけど
まさか身近に出会う人がいたとは、、、
羨ましいというより驚きの方が勝っていました
それと共に


もしかしたらいしいさんとより近づけるかもしれない


と期待もしていました




しかしそれからいしいさんに近づく機会もなく
あれやこれや代理店長をしたり、お酒を飲んだり過ごしていると
何度かお世話になっているあしやつくる場を担当しているTさんから



「今度のあしやつくる場にいしいしんじさんが来てくれることになりました」




と連絡が







、、、おっ?







「小さなお話を書いてもらってその場に来てくれたお客さんに配ろうと思うんですが」









おっ?








「その冊子の装丁をすみかわさんにお願いしようかと思ってるのですがどうでしょう?」











おおおぉぉ!!!




とうとういしいさんに近づける機会がやってきた!
装丁なんてしたことないけど
面白い依頼は断らない
四の五を言わず即承諾






話の内容は直前までわからないから
即興でできるように考えていたのですが
待つこと1~2ヶ月、、、まだ来ない
あしやつくる場はもう1週間後にせまってきており

あれはなかったことになったのかなぁ、、、



と考えていた頃にTさんから





「やっと届きました!」



と連絡がきた




製本などの時間を考えると2日くらいで装丁しないといけない
もう迷ったり悩んだりしてる時間はない
「とじてん」とかコーヒーの淹れ方ZINEとか作っててよかった
今、あの意味があるかどうかわからない経験が生きた




無事、修正する日を確保しつつ完成
つくる場でみなさんに配ることができました












無事完成したので祝杯をあげました
いしいさんとも少し話せたし良かったです










会いたいと思う人がいたとき
ずーーー、、っと会いたいと思っていれば
必ず会えるんだとわかった

そのためにはどんなに小さなチャンスでも見逃さないこと
その、どこかにつながるきっかけは
今も自分のまわりに散らばってるかもしれない